大阪産業大学 田原研究室(Advanced_Rocket_Lab.)
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  3) 有人火星探査用ホール型イオンロケットエンジンの開発

これまで日本ではJAXAを中心にグリッド型イオンエンジンの開発研究が盛んに行われてきたが、欧米ではホール型イオンエンジンの商業化が大きく進み、 大型衛星搭載用の電気推進はホール型エンジンが席巻している状況にある。ホール型イオンエンジンは図1に示すように、円環状の加速チャネル内に径方向の磁場と軸方向の電場を印加した構造であり、 中空陰極より放出された電子の一部はチャネル内に入射し、磁場との相互作用(E×Bドリフトにより周方向に回転する)によりチャネル内に閉じ込められ、推進剤(一般にキセノン)との電離衝突により 効率よくプラズマを生成する。生成されたプラズマ中の正イオンは陽極と陰極の間の電位差により下流に向かって静電的に加速される。噴出したイオンは陰極から放出された電子により中和される。ホール型イオンエンジンでは、 グリッドを用いずに円環状のチャネル全体(放電領域全体)でイオンが静電加速されるために(準中性放電プラズマの存在により、イオンが周りの空間電荷の影響を受けずに加速される)、 推力密度が通常のグリッド型イオンエンジンに比べて1桁大きい。比推力1000〜2000秒、推進効率50%程度が得られるため、地球近傍ミッションに適した推進機として商業化が進められた。 2003年に月探査SMART-1ミッションの主推進用、2004年には静止衛星3機(MBSAT、Intelsat10-2、Inmarsat-4F1)の南北位置制御用に、元はロシア生まれのSPT(Stationary Plasma Thruster) エンジンシリーズ(1.35 kW)PPS1350が搭載された。最近はBusek社が200 Wクラスから20 kWクラスのエンジン、Lockheed Martin Space SystemとAerojet社が4.5 kWのBPT-4000エンジンをそれぞれ開発した。 日本でも大型衛星搭載用の3-5 kWホール型エンジンシステムの開発研究が三菱電機(株)によって行われた。 ホール型イオンエンジンにはロシアのSPTに代表されるマグネティックレイヤー型とアノードレイヤー型がある。前者の加速チャネルはセラミックス製であり、その長さは幅に比べて十分長い。一方、 後者の加速チャネルは金属製であり、その長さが幅に比べて極端に短く、マグネティックレイヤー型に比べて、推力密度が大きく金属製加速チャネルの寿命が長いと言われているが、安定作動範囲が狭い。 典型的なアノードレイヤー型エンジンの本体とそのプラズマ噴出状態を図2に示す。  日本では2012年に、将来の大型ミッションに対応できる日本独自の大電力ホール型イオンエンジンシステムを開発すべく、RAIJIN(Robust Anode-layer Intelligent thruster for Japan IN-space propulsion)プロジェクトが、 JAXAを中心にしたオールジャパン体制でスタートしている。東京大学、九州大学、首都大学東京、岐阜大学、宮崎大学、大阪産業大学などが参画し、まずは5 kWクラス・比推力2000-3000秒のアノードレイヤー型エンジンシステムの開発を精力的に進めている。 アノードレイヤー型エンジンの作動は不安定であり(放電振動有り)安定作動域が狭いが、この短所を逆手にとり、SMART電源をこの特性に合わせて制御し、システム効率と作動安定性の向上を図る(インテリジェント化)。さらに大阪産業大学では、図2に示すTALT-2エンジンの高電圧作動により、日本のホール型エンジンでは初の比推力3000秒(5 kW)以上の安定作動を達成し、世界にアピールできるエンジンシステム開発の目処が立った。現在、RAIJIN94エンジンを新たに開発し、電力6 kWで、比推力3000秒、推力300-400 mNを目指している。

図1 ホール型イオンエンジンの加速原理


図2 アノードレイヤータイプ・ホール型イオンエンジンTALT-2(左)とそのプラズマ噴射(右)




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